悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~
「影宮様におかれましては、
お忙しい中、ご足労頂きまして有難うございます。
私、朱鷺宮涼夜さまが生まれた頃より侍従しております倉智と申します。
どうぞ宜しくお願いします。
涼夜さまにおかれましては、先日両陛下よりお話があり
御降家(ごこうか)の承諾をなされました。
涼夜さまは、古の記憶を抱きし誕生あそばし
約束の時を今日(こんにち)までお待ちしていました」
おいおいっ。
倉智、誰が待ってたって?
倉智の向上に、内心心の中で毒づきながら
俺は御簾の中からその徳力の使者を睨み見る。
徳力……肝心の同い年の当主は不在と言うことか。
どうせ矢面に立つには、未だ幼すぎるとはみ出されているか
周囲のものに甘えて、おだてられて調子にのっているだけの何も出来ぬ
飾りの当主なのかもしれない。
同い年の当主と聞いて少しは逢えぬものかと楽しみにしたが、
その願いは叶わぬようだな。
向かって左側。
紋付き袴の俺に対して十二単と言う正装で姿を見せた
徳力家の当主後見役。
その隣、束帯をビシっと着こなした俺付の後見役と紹介した男。
その二人の斜め後ろ。
少し控えめに束帯を身に纏って交わるのが
分家頭と紹介された後見補佐か……。
ここから見ると高校生になるばかりのガキ相手にどんな対面だよ。
マジかよ。
それが俺自身の本音。
「涼夜さま、影宮様よりご挨拶がございます」
倉智の合図でゆっくりと御簾の奥に居る俺に告げられる
影宮からの合図。
降家の後、徳力闇寿と華月が俺の影宮での両親となる旨が告げられた。
新しい家族、養父と養母となるのだと告げる言葉。
だがその『家族』と言う言葉に、俺自身の魅力は得られない。
俺自身の家族像に関する理想も思いも、遠い昔に崩壊している。
現当主が俺と同い年でまだ若く俺を養子にすることが出来ないなど
そう言った徳力サイドの事情などをゆっくりと説明してきた。
同い年のヤツの養子に入るなんてまっぴらゴメンだ。
「涼夜さま、以上が影宮より伝えられし
降家の条件でございます。
ご了承頂けますでしょうか?」
了承も何も拒否権などない未来の癖に。
「了承した。
影宮の使者、同い年の当主に会える日を楽しみにしている」
御簾の向こう側へ届くようにやや声を張り上げて告げる。
「徳力の者一同、 朱鷺宮涼夜さまの御降家(ごこうか)を
お待ち申し上げております。
朱鷺宮さまのお言葉、当主・神威にも伝えておきます」
養父となる闇寿が静かに告げる。