「 」で出来てく物語
【届かぬ先で触れた体温】
男の子「…………」
女の子「………っ」
男の子「ねぇ、届かないんでしょ? 図書館の人よんでこようか?」
女の子「……! だ、だれよあんた」
男の子「べつに……たぶん、キミとは小学校ちがうし。知らなくてもいいんじゃない?」
女の子「じゃあほっといて、あたしは自分であの本とれるから」
男の子「でも届いてないよ。台かなにか借りてこようよ」
女の子「バカにしないで、届くもん。ほら指先もう少しで触れるでしょ」
男の子「少し触れたところで本はつかめないよ」
女の子「うるさいわね、あんた何年生? チビだけど」
男の子「チビじゃないもん。2年生だけど……」
女の子「あたしと一緒じゃない、あたしも2年生よ。なのにあたしより少し大きいだけ。男のコなのに」
男の子「男のコは中学生になったら伸びるの。チビって言わないで」
女の子「じゃああの本、取ってみなさいよ」
男の子「…………」
女の子「ほら、むりなんでしょ」
男の子「……取れるし」
女の子「いいわよ、自分で取るから」
男の子「図書館でジャンプとかやめなよ、静かにしないと怒られるよ」
女の子「どうしてもあの本がよみたいの」
男の子「なんの本? 童話とか?」
女の子「……オニが人を食べる話……」
男の子「うわ……ヘンな子……」
女の子「あんたに言われたくないわよ! 関係ないのにずっとあたしに突っかかってきて、なんなのよ」
男の子「だ、だって……困ってる子がいたら、ほっとけないだろ……」
女の子「……かってにすれば」
男の子「かってにするよ。どいて、背伸びして取るから」
女の子「あたしも背伸びして取るの!」
男の子「あーもう、ジャマだなぁ」
女の子「こっちのセリフ……あ! 届いた!」
男の子「あっ! 俺も!」
女の子「…………」
男の子「…………」
女の子「って、あんたの手じゃない!」
男の子「そりゃ同じところに手を伸ばせばこうなるはずだ……」
女の子「あぁ、もう。あたしはただあの一寸法師が読みたかっただけなのに……」
男の子「……え! オニが人を食べる話って言ってたじゃん!」
女の子「一寸法師よんだことないの? 姫さまをすくおうとした一寸法師がオニに食べられるページあるでしょ?」
男の子「うわ……そんなヘンな言い方しないで一寸法師って教えてくれればよかったじゃないか!」
女の子「ウソはついてないもん。なんであんたがそんなにがっかりしてるのよ」
男の子「だって……今日はこれを返しに図書館に来たから……」
女の子「あ、それ……一寸法師って……あんた手に持ってるなら最初から言いなさいよお!」
男の子「キミがウソをつくから……!」
女の子「あぁ、背伸びして損した……」
男の子「…………」
女の子「…………」
2人「「(……ヘンな子)」」