悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
25.雨の向こう側 -飛翔-
目を開いた時、真っ先に飛び込んできたのは
真っ白な天井。
ゆっくりと視線を動かしていくと、
この場所が、神前なのだと居場所がリンクする。
隣のベッドで眠り続けるのは、
兄貴の忘れ形見。
甥の神威。
自分のベッドからゆっくりと体を起こして、
隣のベッドへと移動してアイツの状態を観察する。
……良かった……。
手首の脈をとりながら、
今も規則正しく時を刻む証に安堵する。
自分のベッドへと移動しようと動き出すと、
ゆっくりと病室のドアが開く。
入ってきたのは、見慣れた親友・由貴。
「飛翔、起きたんだ」
由貴は真っ直ぐにベッドへと近づいて、
俺のベッドに腰掛ける。
自分のベッドに戻って、由貴と同じように
ベッドマットに腰掛ける。
「さっき、起きたよ。
ここは神前だよな」
「えぇ、神前ですよ。
勇が裕さんと連絡つけてくれて、
ヘリで駆けつけてくれましたから」
「そうか。
どれくらい過ぎたんだ?」
「今日で二日くらいでしょうか。
嵩継さんから、GWが開けたら研修に戻って来いって、
後、飛翔のお母さんもその頃に退院でいいぞって、
伝言預かってきました。」
由貴がそう言って、
鷹宮からの伝言を届けてくれる。
そんな温かい気遣いに、
ほっとする俺自身が存在する。
「一人だと難しかったな」
しみじみと吐き出すように紡ぐ言葉。
由貴や勇、
それに時雨たちが来てくれて良かった。
何度、呼びかけても何度捕まえても、
振りほどいて、海へ海へと歩いていく神威。
折れかけた心を支えたのは紛れもない、
親友の声。
「由貴……お前、あの雨を見たか?」
殴り殴られ、打撲痕くらいは
体中のあちこちに今も残っていると思っていた。
痛みもなければ、傷も俺自身の体から
全て消えてしまっている現実。
金色の雨が降った……。
龍が俺と神威の中に降臨した。
そんな信じられない現実。
「飛翔の傷も、神威君の傷も私たちが駆けつけて、
確認した時には殆どなかったんです。
状況が状況だったので、神前に搬送されて
二人ともCTはとったみたいです。
だけど異常は見当たらなかったっと、
裕さんが言っていました。
徳力・生駒・秋月は、
時としてこんな不思議なことが起こりうるそうですね」
不思議なことか……。
確かに、
そうかも知れないな。
あの時、降り注いだ黄金の雨。