悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



総本家の当主と末端の楔。



「顔を上げてよい。
 姿勢も改まらずとも良い。

 飛翔に世話になった礼と、早城には礼を欠いたことを
 詫びに来た。

 申し訳ない」



何処までも可愛げのない謝罪の仕方。
それでもアイツには精一杯の謝罪のようだった。




「母さん、今日は神威と一緒に特別室に居る。
 用があったら呼んで」



そう言って、神威を連れて特別室へと向かうと
そのままアイツをベッドに横にさせて、
俺は一度、医局へと顔を出し、研修用の書籍を手に病室へと戻った。


コミュニケーションをとるのが苦手な俺には、
何時までたっても『問診』のコツと、上級医への
コンサルがスムーズにいかなくなる可能性があるわけで、
それだけは、研修再開までに何とかしておかないといけないステップで。



研修医としての勉強を進めながら、
ベッドで眠り続ける神威を時折見ながら、
過ごす穏やかな時間。


こんな時間がやってくるなんて、
二月には考えられなかった。




二日後、母さんと神威を連れて、マンションへと帰宅する。




最上階。


神威との共同生活空間になる一室へと帰った俺は、
そのまま考えていたことを伝える。




「神威、お前転校はしないか?

 昂燿校は全寮制で遠いだろ。
 第一希望は海神、第二希望は悧羅。

 海神が一番寮生期間が短いからな。
 それで、ここから通え」


突然の提案に、
驚きの表情を浮かべる神威。


「んで高校は、出来れば俺の母校に行ってみないか。
 俺も神前に居たのは、高校以外の時間だけなんだ。
 
 由貴や時雨と出逢ったのも、神前以外の学校だったんだ。
 無理強いはしない。
 
 神前に通いながら、考えといてくれ」



まだスムーズなコミュニケーションとは行けない。



大きな溝は、一気に塞がることはないけれど
それでも少しずつ、塞がっていくのが感じられる時間。



「高校のことなんてまだわかんない。

 ただ神前間での転校なら、
 身動きがとりやすい場所なら何処でもいい。
 
 ボクはこれから当主としていろいろと務めるべきことがあるから。
 昂燿は交通の便も悪いから。

 海神で構わない」



可愛げがないなかで、問いかけた質問には
アイツなりに答えようとしてくれてる。
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