悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
ボクが感じたのは、
あの日……優しく降り注いだ金色の雨。
雨の中、ぼやけるように浮かんでいた龍のシルエット。
だから……雷龍が助けてくれたのだと思えた。
だけど……あれが、
雷龍だって言う確信は何処にもなかったんだ。
*
徳力家ご当主、徳力神威殿。
雷龍の一族の長となられし貴公に、
申し伝えたいことがあります。
明日【みょうにち】、19時。
華月殿の病室でお待ち申し上げる。
柊
*
「飛翔、19時に華月病室で会いたいと記されている」
「そうか。
行きたいか?」
「当主として行く」
「なら俺は立ち会うだけだ」
飛翔は車を走らせながら、ボクを見ることなく答えた。
「怒らないのか?」
「神威が決めたのなら仕方ないだろう。
お前が大人しく甘んじるとは思えん。
なら許可をして見届ける方が得策だろう」
その言い方はその言い方で癪に障る。
何時までもガキ扱いをして。
一族の中で、ボクに対して
ガキ扱いするものは今まで居なかったと言うのに。
「なら一度マンションに戻って支度してから出掛ける。
各事業の報告を受けたい。
万葉を呼べ」
当主モードに切り替えた後も、
アイツは敬うでもなく、いつもの調子で
命じた用件だけは確実にこなしていく。
マンションに戻って、万葉の口から
寮に滞在していた、ここ1週間の徳力の事業報告を受ける。
その状態を把握してから、正式に当主として、
アイツを……お父さんが託した雷龍翁瑛の札を持つ飛翔を、
ボクと同格の地位になったものと一族に通達させる。
当主の後見役として華月は、そのまま据え置いて
飛翔をボクの補佐役へと正式に任命する。
それと同時に、分家末端の早城の地位を事実状のナンバー2へと
格上げさせる。
これで……アイツの存在は、
当主のボクが認めたことになる。
何事もボクの意志が優先させる
古からの柵も、こんな使い方ならいいかも知れない。
通達作業を終えた途端に、
最上階のベルを鳴らす訪問者。
それは早城の養父。
お礼を言いに来たらしい養父を
飛翔は追い返すように制して、
そのままボクの方へとやってくる。