悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
「ガキが気を使ってんじゃねぇ。
まぁ、だが……神威の補佐役って言うのも悪かない。
これで正々堂々と、神威をしめることが出来るな」
そんな憎まれ口を叩きながら、
目の前のアイツは意味深に笑う。
18時を過ぎた頃、アイツがボクの部屋を訪ねる。
家庭教師に出された課題をこなしながら、
勉強をしていたボクに「出掛けるぞ」っと声をかけた。
分厚い本を閉じて、
アイツの待つリビングへと姿を見せる。
徳力の当主として相手に対面する場合、
ボクの正装は仕立てられた当主としての紋付き袴。
黒の紋付を身にまとって、
アイツの元へと出ると驚いたような顔を見せた。
「お前、その服装」
「当主としての正装だ。
当主として客に会うのだ。
当然だろう」
そのまま地下の駐車場に向かったボクは、
飛翔が指さした愛車とは別に、
徳力の本社から呼び寄せたリムジンへと飛翔を呼びいれる。
「ボクの当主としての移動手段だ。
ボクの補佐役なら、その時間はこの移動に慣れろ。
いいな」
「あぁ」
飛翔は一言だけ頷いてまた黙り込む。
沈黙の車内のまま、神前までリムジンが走ると
ボクたちは、華月の入院している特別室を目指していく。
「華月、見舞いに来た」
病室のドアを開けてボクが声をかけると、
そこには先客が居た。
「あなたが徳力のご当主」
先客が告げた途端、
ボクの後ろに居た、飛翔が「生駒の神子」と
言葉を紡いで病室へと入っていく。
「華月、どういうことだ?」
「ご当主、彼女は生駒の隠し神子。
柊佳【とうか】殿。
我が娘、夕妃の実のお母上です。
私の弟と寄り添った者にございます」
華月は静かに自らの関係を告げる。
華月の弟の名は……。
一族に伝わる家系図を脳裏に描いていく。
徳力櫻翼【とくりき おうすけ】。
櫻翼の奥方が、あの生駒の神子。
「失礼します。
お手紙を頂戴いたしまして、
まかりこしました」
話の途中、ドアの外から桜瑛の声が聞こえる。