悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence




げっ、桜瑛。
なんでアイツまで、此処に居るんだよ。




「秋月さま、お入りください」



華月が声をかけると、
静かに扉が開かれて着物姿の桜瑛が
ゆっくりと病室の中に歩いてくる。




「これはこれは、秋月の火綾【かりょう】の君」

「其方が手紙の主、柊ですか?」



桜瑛は手紙を握りしめながら、問いかけると
生駒の神子はゆっくりと頷いた。




その後、ようやく気が付いたようにボクの視線を捕えると

「神威っ!!」っといきなり抱きついてきて、
次の瞬間「神威のバカ」っと頬を平手打ちしてきた。


頬を手で摩りながら桜瑛と向き直ると、
次の瞬間には目に涙をいっぱい溢れさせながら泣き始めてる。




*

どれだけ忙しいんだよお前は。

*





呆れながら心の中で呟く。




「さて、ご当主も火綾の君も揃われましたし
 柊殿、本題を……」



終息した頃に、ベッド上の華月が呟く。


すると生駒の神子は、
ゆっくりとボクと桜瑛、飛翔を見つめながら
両の指で、何かを描くように動かして
口元で小さく呟く。


次の瞬間、両手で柏手を叩くようにパンっと一つ
音を鳴り響かせると、次は深い息を吐き出していく。

全ての息を吐き出した後、
おもむろに一息ついて、再びボクたちの方を見た。




「生駒の神子、何をした?」

「徳力のご当主。
 いえ、この時より古の呼び名で。

 宝【ほう】さま、私の呼び名は柊【ひいらぎ】で結構です。

 先ほどは、この病室の隅々にまで、蒼龍の加護による
 結界を張り巡らせました。

 不浄の者より、この言霊【ことだま】を守るため」

「言霊を守る?」

「さようでございます。
 力ある者たちが紡ぐ言葉は、その言葉が魂を持つ言霊。

 その力をカムナなどに狙われては行けません故。

 私がこの場をおさめました」



柊が告げる言葉は少し難しい。



「ご当主、柊殿は現在、唯一、龍神の加護を得られし方。

 雷龍の神子であられるご当主・炎龍の神子であられる火綾の君。
 お二人に、その龍のご加護の使い方を指南するべく、
 今宵は出向かれたよし」


「柊、お前はボクが雷龍を使役せしものと言い切るのか。
 ボクは今だ、その姿を認めたことがない」


「私の柳蓮【りゅうれん】が申しております。
 ですから、貴方は紛れもなく、雷龍の玉を抱きしもの。

 それは貴方の御手に刻まれし刻印が証。

 宝さまと火綾の君には、これより時間が許す限り
 私と行動を共にして頂きたく、お役目を伝えに参りました。


 龍を抱きしものの務めは、 各地に渡る全ての結界をその身に移し、
 弱りし土地に赴いて、その地の結界を強固にすること。

 私はこれまで、娘を華月殿に託して
 この地を守るために奔走してまいりました。

 この後は、お二人の後継者にその役目をしかと伝承したく存じます」


柊はそう言うと、静かにお辞儀をした。
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