悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
週末、三人だけの修行を終えてボクは、またいつものように海神校の寮へと戻った。
その日も何時ものように、皆が寝静まった寮の自室で
一人、力を高めるための儀式と修行を続ける。
一点だけに集中していた気脈の気を、次第に意識を少しずつ広げていく。
ほんの少し、金色の光がボクの体を包み込んでいるようにも思えた。
息を止めて一気に集中して、呼吸が続かなくなったのと同時に崩れ落ちるように
ボクは床へと座り込んだ。
大分上手く行った気がする。
疲労感は半端ないのに、何処か心は軽くて
少し嬉しさが混じる。
引きずるようにベッドに潜り込んで、
目を閉じると、意識は何処かに引きづられるように落ちていった。
突如金縛りにかかったように動かなくなった体に、
まとわりつくようにねっとりとした黒いものが、圧力をかけながら渦巻いて締め付けていく。
何?
目の前に広がる、非現実的な光景にボクは体を動かし、声を出したいと望むのに
自由にならないボクの体。
真っ暗な世界の中、薄らの見えるのは……金色の角を宿した存在。
*
誰?
*
声をかけたいのに、ボク自身は発することも動くことも出来ない。
体を少しずつ黒いものに乗っ取られている、その角の存在は
ボクを捕えて「タ・ス・ケ・テ」と紡いだ。
その鬼の周囲には、桜吹雪が舞い踊る。
朝、重怠い体を引きづるようにベッドから体を起こす。
ずっと、自由の利かなかった体はようやく動かせるようになったものの
怠すぎる体は、ベットからすぐに動ける状態にしてくれない。
デューティーのお目覚め準備をしなきゃいけないのに……。
「徳力君、時間だよ。早く起きないと間に合わないよ」
ルームメイトの子が声をかけ、ボクはベッドから必死に体を離そうと
床についた足に力をいれるものの、立ち上がれた思った途端、体が床にすり抜けた感覚が包み込んで
床へと倒れ込んでしまった。
「徳力君?」
物音に慌てて、ルームメイトが駆け寄ってくる。
かっこ悪い……。
「ぼく、徳力君のデューティー呼んでくる」
そう言って、慌てて駆け出す存在。
まだ殆ど名前も覚えていないルームメイト。
大人に囲まれた生活が多すぎて、ボクと同じ年代の存在にどうやって
付き合えばいいのかわからないから、ずっと疎遠だった。
当たり障りのない関係だけを続けた、ルームメイトたちがボクの為に走りまわってる。
「神威っ!」
暫くしてボクのデューティーが、駆けつけてくる。
デューティーの後ろには、グランデューティとなる、デューティーのデューティ。
「神威、医務室で少し休もう。
抱え上げるよ」
グランデューティに抱きかかえられたまま、寮の医務室に連れて行かれると
西園寺病院からの校医が駆けつけて、ボクを診察していく。
「疲れているのかな」
診察してくれた先生は、そう言ってボクに点滴の処置をして
デスクに座った。