悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
「大丈夫だとは思うけど、念のために保護者の方に連絡しておこうか」
先生の言葉に、ボクは渋々、飛翔の連絡先を伝えた。
平日の今は病院で働いている時間だと思うから、
鷹宮総合病院の連絡先と一緒に。
「今は眠りなさい」
先生の優しい声と、点滴がポツポツと落ちるのを見つめていると
すーっと、ボクは眠りの世界へと導かれた。
そして再び……あの金色の角の夢を見た。
それと同時に大きな桜の木の夢を。
目が覚めた時、ボクの傍には着物姿の華月と、病院を抜け出してきたらしい飛翔の姿があった。
「ご当主」
華月の言葉に体を反射的に起こそうとしたら、
すーっと伸びてきた飛翔の腕に、それ以上を起きることが出来なかった。
「起きるな。じっとしてろ」
そう言いながら、飛翔はボクの腕から、終わったらしい点滴の針を抜き取った。
気まずくて何も言えないボクは、二人の視線から逃げるように
窓の外を見つめる。
その時……、ボクの視界に入ってきたのは夢で見た大きな桜の木。
……タスケテ……ボクガ、ソマルマエニ。
夢の声と同じ、その声がボクの耳に届いた。
不穏な音(声)。
その日から、ボクを取り巻く時間が少しずつ変わっていった。