悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
9.最初の決断 -神威-
学校の寮で倒れて医務室に運ばれたボクは、
呼び出されて駆けつけた飛翔と華月の言う通り、
マンションへと帰宅する。
飛翔の車の中で、眠ってしまったボクが気が付いたのは
マンションの自室のベッドの中だった。
起き上がった時には、華月しか部屋には居なくて
アイツは仕事に戻ったみたいだった。
寂しいと思う気持ちと、バカだと思う気持ち。
ボクのことなんて放っておいて、
お前のことを優先にしろよ。
そんな風に思う気持ちと、飛翔が駆けつけてきてくれて
嬉しいって思うそんな気持ち。
アイツと出逢って数ヶ月。
ボクがずっと諦め続けていた温もりを
ふと感じさせてくれる。
そして感じた後は……アイツがもう居ないことを知って、
寂しさを覚える。
ベットから這い出して華月が用意してくれたご飯を食べると
そのままリビングのソファ-に座る。
「ご当主さま、まだご無理は行けませんわ。
少しソファーに座って休まれたら、
またベッドでお休みくださいませね。
ご当主さまが倒れられたと電話が入って、
一族、皆心配しておりましてよ」
「すまぬ。
華月もやるべきことがあるなら、それを優先に。
ボクももう少し寝るよ」
謝罪の後、言葉を続ける。
ボクが起きていたら、多分……華月の抱える仕事が捗らない。
こうやってすぐに大人の顔色をみながら
ボクの感情を押し殺すのに慣れ過ぎてしまっているから。
自室に閉じこもるようにベットに潜り込んで目を閉じるものの、
思うように眠れない。
今も眠りかけた頃に……あの金色の鬼の声が聞こえる。
何度も何度も……悲痛な声で。
その度に、ウトウトしかけたボクの意識は覚醒していく。
そんな繰り返しに疲れたボクは、
ベッドから抜け出して、窓際に立ちながら明りの消えた部屋で
何時もの所作を続ける。
気を集中して……息を生吹に……。
雷龍を召喚するには、指文字でこうやって……。
何度も何度も繰り返しながら練習するたびに、
生気を一気に吸い取られるような錯覚が強くなる。
そのまま立っていられなくなって窓際に座りこむ。
そのまま這うようにベッドに近づいて手を伸ばして、
肌布団を床に引っ張り下ろす。
手繰り寄せた肌布団に身を包んで、
小さく体を縮こませながらじーっと体調が落ち着くまで待ち続けた。
すると部屋の外からドアが開く音が聞こえて、
アイツと聞きなれない声が近づいてくる。
ふいに部屋の灯りがついて、眩しさに目を閉じる。