悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


「桜瑛……お前、何でいるんだよ」


立ち尽くしたまま告げるボクに、親子喧嘩をやめて
華暁が口を挟む。


「私が呼びましたの?何か文句あって?」


華暁の後ろ、桜瑛は心配そうにボクを見つめる。


「心配しなくていい。もう大丈夫だ」

「もう大丈夫じゃないでしょ?
 当主だからって何も出来ない貴方が上から目線なんて
 おかしくてよ。

 私はともかく心配をかけた桜瑛には心から謝っていただきたいわね。
 ほらっ、少し席をはずしてさしあげてよ。
 
 桜瑛、神威を好きなだけ平手打ちしてリビングに二人で出てきてちょぅだい。
 母上、リビングに参りましょうか?」


相変わらず華暁はめちゃくちゃだ。

だけど華月と二人出ていったボクの部屋には、
立ち尽くしてる桜瑛と二人きり。


「桜瑛、ほらっこっち」


ベッドの隣をポンポンと叩くと、桜瑛は近づいてきてボクの隣に腰掛けた。


「倒れたのは本当だけど、心配しなくていいから。
 ボクも少しだけ、雷龍の力の片鱗を感じる様になってきたんだ。

 桜瑛が焔龍の力を感じた時に、倒れたのと同じだよ。
 
 何か力を感じられたって思ったら、物凄い勢いで体のエネルギーを奪われるって言うか
 それで……戸惑った」

「それなら私もわかる。

 私も焔龍の力を感じた時、体の中は血が沸騰するみたいにカーって熱くなったのに
 それと同時に一気に力が奪われて、体に力が入らなくなったの。

 でもそれも少しの間だけだよ。
 あれから暫くしたら、そんな感覚も私は薄れていったよ。

 今はね、気を集中したら炎の召喚できるようになったの。
 炎を召喚した後は、周囲の空気が澄み渡っていくのが感覚でわかるようになったわ」



ボクを慰めようとしていってるのか、桜瑛自身のことを聞いて欲しくていってるのか
いまいちわからなかったけど、だけど桜瑛がボクの先を歩いている現実は変らない。



「桜瑛……お前、毎日同じ夢を見ることってある?」


心に秘め続けていた想いをこんな形で吐き出す。


「夢?
 それはないわね……毎日疲れ果てて、お布団に倒れ込むもの。
 気が付いたら朝になってて、学校行って帰って来て修行。

 ずっとそれの繰り返し。
 神威は何か同じ夢を見るの?」

「うん。夢は見る……。
 けどお前が見てないならいいや。

 ボクの問題だと思うから」

そう言うと桜瑛を残して、自室のクローゼットルームでパジャマから洋服に着替えると
桜瑛を連れてリビングへと向かった。



リビングには、柊・華月・万葉・華暁たちが集まっている。

それと同時に玄関が開く音がして仕事先から帰ってきたらしい飛翔が姿を見せた。



「お帰りなさい、飛翔。
 今、ご当主もお目覚めになられたところですわ」


華月がアイツを迎え入れると、アイツは黙ってボクの背後に立つ。


「今日、皆さまに集まっていたたいたのは
 今後の宝さまの決断を見届けて頂きたいからです。

 秋月の巫女は、私の隣の席へ」


そう言って言葉を切り出した柊。



その日……ボクは、亡くなった父のこと、母のこと。
母が命をかけてボクの体に施した能力の封印。

そして今、鬼の夢を見ているのは、ボク自身の望みが原因で
母が施した封印が解けようとしているのを知った。



ボクに求められる決断は母の封印を徐々に解放して、
宝としての与えられた使命を歩き出すか、
母の血縁である華月に再び、封印を施して貰うかの二つの一つ。



その場合……ボクを封印するために、華月の命は絶たれることになる。




決断を要求されるボク。





「神威、大人の顔色を見ようとするな。
 お前の望みを言え」



諭すように告げる飛翔の声。



ボクの望みは……変わらない。
これ以上、犠牲者は出さない。




「ボクはこの力をボク自身のものにして、
 歩き続ける。

 宝【ほう】の道が、宿命がなんてボクには難しすぎてわからないけど
 今のボクは、夢の中の鬼を助けたいんだ。

 その為にボクの力が必要なら、ボクはこのままでいい」



最初の決断。




ボクが一人のボク自身として決断した最初の一歩。
ちゃんとボクは自分の足で歩き出せるような気がした。


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