悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



暫くすると、山の中へと続く坂道へと差し掛かる。
坂の下には何処かの家の大きな車が駐車されてあった。



坂をのぼりきった少し広場になって居る場所に、
ボクたちが乗ってきた車が順番にとめられていく。



窓を閉めて、車のドアをとめて地面に足をつける。


生ぬるさと重苦しい空気が、
どんよりと重く体に伸し掛かってくるように纏わりつく。


胸元に無意識に手を伸ばして、
その重苦しい時間をやり過ごそうとする。



「神威、どうした?」


ボクを気にかける飛翔は近づいてきて小さく告げた。


「空気が重たいだけ」

「空気が重たい?」

「うん。重たいの。
 だからあの鬼はボクを呼んでたんだ。

 飛翔、こっち」



脳内に浮かんできたビジョンを辿るように
ボクは桜塚神社のお社の方へとかけていく。


途中、玉砂利を踏みしめながら大きな桜の大木がある場所へと
走りはじめた。


息苦しさは今も落ち着かない。



そんな時、ボクの後を追いかけてきた桜瑛は
気を集中させて、何かを指文字で描く。



「浄化の焔よ」


そう言って桜瑛が紡ぐと、掌から炎が一際大きく迸って
周囲の邪気が祓われていったのか、空気の重苦しさが薄れていった。


術を使った後も、最初の頃みたいに疲れた顔をしなくなった桜瑛。



そのまま後ろの方を振り返ると、
華月と柊が何かを話しているみたいだった。



ボクは更に一人で、神社の敷地内へと立ち入る。



息を殺して隠れているつもりだけど、
あの木の後ろの方……境内の方に、一人・二人・三人……誰かが居る。


気配に気が付きながら特に何かをしてくるでもないし、
その三人がボクに救いを求めた存在とは思えなくて、
夢で何度も見続けたその大木の前までボクは歩き続けた。


大木の前、そっと桜の木の幹に手を翳す。


何かを感じ取れるわけではなかったけれど……
この場所があの鬼と関係する場所なのかもしれない。



そんな風に思えたのは、
その桜の木の中からあの声が小さく響いた気がしたから。


*

大丈夫。
ボクがちゃんと君を助けるよ。

*


目を閉じて桜の木に向かって小さく呟いた後、
ボクはその場所を後にした。
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