悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
『帰らなきゃ。
ボクの帰るところへ……。
帰りなさい君が居るべき場所へ』
鬼の口がゆっくりと何かの言葉を紡いだ後、
ボクは一気に何かに引きづり戻されるように覚醒した。
ベッドの上で飛び起きて枕元の時計を見つめると、
夜中の2時半を少しまわったくらいだった。
もう一度ベッドに潜り込んで眠ってみようと思っても、
あの鬼の存在が気になって、眼が冴えてしまった。
眠れないや……。
誰も居ない空間に呟いて、体を起こすとそのままパジャマを脱ぎ捨てて
私服へと着替える。
窓際に立って窓ガラスをゆっくりと明けると、
ボクは一階なのをいいことに、そのまま柵を越えて寮を飛び出した。
今は桜塚神社へ。
あの鬼を探しに行きたい。
アイツを助けなきゃ……。
ただそれだけを考えながら、
海神寮から学院を門を抜け出して、
桜塚神社まで駆け抜けた。
途中、警備員さんに見つからないように息を潜ませて隠れながら。
勢いだけで、
こんな大胆なことが出来てしまうボク自身。
それと同時に、
アイツの顔が思い浮かぶ。
*
父さん……母さん……
ボクにあの鬼を守る力を。
*
心の中で念じながら、最後の坂を駆けのぼろうとしたボクは
次第に足が重怠くなっていく。
何だろう、空気がとても真っ黒に見える。
空気が真っ黒なはずはないのに……。
足を踏み出すのも辛くなって、その場に立ち止まると
ゆっくりと深呼吸を試みる。
必死に空気を吸いこもうとするのに、
空気が肺の中に思うように入ってこない。
もがくように必死に、呼吸を整えようと
儀式を繰り返す。
息吹を生吹に……。
そしたらボクは、ボク自身でこの身を守れる。
お願い……ボクは、あの桜の木のところまで行きたいだけなんだ。
雷龍翁瑛、ボクの意に応えて。
必死に召喚の指文字を空間に向かって描き付ける。
一心不乱に……。
ふと金色にひと際輝く光。
その後……金色の雨が、ザーっと降り注ぐ。