悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
一瞬のうちに降り注いであがった雨の後は、
あの息苦しさも、真っ黒に淀み過ぎた空気も消えていた。
「行かなきゃ」
まだ目的の桜の木には辿り着いていないから。
一気に体力を奪われた感覚を抱きしめながら、
ボクは残り半分の坂をゆっくりと駆け上がった。
視界に映るのは大きな桜の御神木。
美しい桜の花弁は、今は見えない。
ゆっくりと近づいて、桜の木に持たれるように座り込みながら
ふと頭上の枝を見つめる。
アイツは居ないのか。
……あの鬼に会えると思って此処まで走ってきたのに……。
そのままボクは疲労から力が尽きるように眠り落ちてしまった。
『君は来てはいけないよ』
夢の中、ボクはまたあの鬼の声を聞いていた。