悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
その日は、そのままお神酒を飲まされて
神に捧げるための、支度が順番に行われていく。
外の世界とは確実に隔離されてしまったその空間。
「それでは、ご当主。
明日、ご当主の身は海に捧げ神の元に誘われます。
お支度の時間まで、今しばらくお心を静めてお過ごしください」
「康清、最後に一人だけ連絡を取りたい。
携帯を」
「ご当主、ご連絡を取りたい方はどのような方でしょう?
場合によっては、承認できかねます。
儀式のことは門外不出」
「大丈夫だ。
連絡を取るのは、秋月の火綾(かりょう)の巫女」
「なんと……秋月の巫女姫さま」
「桜瑛【さえ】も同じ身の上。
だから連絡する。それだけだ」
そう言うと、康清は和服の袖から
ボクの見慣れた携帯電話を取り出すと、
ゆっくりと差し出した。
「ご当主、恐れ入りますがメールの送信文も確認させて頂きます」
「好きにしたらいいだろ」
そう言うと携帯をいつものように触りはじめる。
呼び出すのは、桜瑛のメールアドレス。
タイトル→空白
本文→サヨナラ
ただそれだけ。
それをそのまま、康清に見せると
康清は逆に「それだけで宜しいのですか?」っと問う。
携帯を黙って受け取ると、送信ボタンをおす。
そのまま全ての携帯の中に入っているデーターを初期化して
電源を落とすと、康清へと返した。
ボクにはもう必要のないものだから。
翌朝、ボクは白装束を着て迎えに来られた
何人かの村人たちによって、輿に乗せられて海へと運ばれた。
耳には雪を踏みしめる音だけがリアルに残る。
波の音が近づいてくると、そのままボクは
用意された別のものに乗せ換えられる。
白装束のボクをのせた小舟が、
村人たちの手によって、静かに海へと流されていく。
簡素な作りで、壊れやすいように作られたそれは
すぐにボクを冷たい海の中へと沈めて、
そのままボクは意識を失っていった。