悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
それは今日から感じるボク自身の異変。
今までは、眠っている間に夢を見ているだけだったのに
今日は……ふとした時に、映像が流れ込んでくる。
瞼の裏に映し出されるように、
思い出を辿るように、見知らぬ映像が記憶の泉から溢れ出るように。
伝えられるのは、あの鬼の姿。
あの鬼が、寂しそうな目をして誰かを剣で斬りつけた。
赤い血が、刃を伝って地面へと吸い込まれていく。
その血を吸ってか、地面が真っ赤に広がって
天から、紅葉の葉っぱが地面いっぱいに敷き詰められていく。
その真ん中で、ボクの知るあの鬼は
苦しむように呻き倒れていた。
助けたくて、必死に「手を伸ばしたい。助けたい」と念じるものの
ボクの手は、空間を彷徨うだけど、あの鬼を掴み取ることは出来ない。
*
友殺しをしたボクの罪を知って軽蔑しないで
*
鬼の悲痛な想いが、ボクの中に真っ直ぐに突き刺さる。
勉強をしながら、何度も何度も繰り返されるその映像に
不安が留まることはない。
勉強を始めてから、もう3時間。
本当はもう少し眠らせてやりたいが、
もうタイムリミット。
「華月、飛翔を起こせ。
状況が変わった。
桜塚神社に向かう」
部屋のドアを開けて声を出すと、
慌ただしく、邸の中が動き出す。
着替えを済ませて、総本家の敷地内の奥にある洞窟の泉で
禊を終えると、呼吸を整えて飛翔の前へと足を進めた。
3時間の仮眠を終えて、
強制的に起きてきたアイツがオレを迎える。
「万葉・華月、飛翔。
お前たちの知る手札を示せ。
今、またボクの中に助けを求める鬼の意識が流れ込んできた。
だからボクは、今一度桜塚神社に向かう。
桜瑛と、さくら・柊にも連絡を」
そのまま飛翔を連れて、ボクはヘリへと乗り込む。
ヘリの中で、飛翔が知る一連の情報を聞き出して
ボクたちは再び、桜塚神社へと足を踏み入れた。
踏み入れた桜塚神社の空気は、また淀んで真っ黒に見えた。