悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
だけどボクがアイツの腕の中で落ち着いたのを感じ取ると、
飛翔はすぐに、鬼が殺そうとしていた女の方へと駆け寄って
何かをやりはじめた。
ボクの傍にゆっくりと近づいてくる柊。
「宝さま、御無事ですか?」
「柊、あの鬼はどうなる?」
「悪いようにはなりません。
心優しい貴方が、あの鬼……桜鬼神を思い続けるのであれば
龍神はお応えくださいます。
どうぞ今は、私の氷蓮にお任せを」
柊はそう言いながらボクに微笑んだ。
蒼龍と対峙続ける鬼をボクは真っ直ぐに見つめる。
鬼を覆う真っ黒い皮膚が、前よりも酷くなっているのが感じて取れた。
「柊、お前には見えるの?
あの鬼の真っ黒い皮膚。
あの鬼はどうして皮膚が黒くなっているの?」
疑問に思っていたことを柊にぶつける。
「さぁ、それは私にもわかりません。
ですが私に伝わってくるのは、桜鬼神の悲鳴のような声・嘆き・罪悪感」
「ボクと同じ……」
「神威だけだと思わないでっ!!
もう渋滞してて到着するの遅くなっちゃったじゃない。
それに約束の時間よりも皆、到着してるのが早いなんて信じられない」
そう言って息を弾ませながら姿を見せたのは桜瑛。
「柊さま、あの鬼の為に私たちが出来ることは?」
「そうですわね。
あの桜鬼神の望みを叶えてあげることでしょうか?
あの者はもう長くは持ちますまい。
それは私の氷蓮が言っていた確かなこと」
「私もちゃんと、焔龍にお願いする。
あの桜鬼【さくらおに】の神様を助けてくださいって」
「えぇ。
秋月の巫女、それが宜しゅうございます」
柊がそう言ってボク達の会話をまとめた頃、
飛翔が倒れていた女の傍から、ゆっくりとボクの方へ歩いてくる。
「あの人は大丈夫だ」
「そう」
飛翔が言うなら安心……だ。
あの鬼は、あの人を殺さずに済んだ。
ボクは鬼の方へと近づいていくと、
鬼は何故か蒼龍との会話の後、涙を流しながら微笑んで『もういいよ』っと
ゆっくりと口を動かした。
だけど……そんな時の鬼は、
何かを企んでいる気がして、ボクには新しい胸騒ぎがする。