悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
その答えは、もう一人の珠鬼と言う鬼が教えてくれた。
紅葉は、風鬼と呼ばれていたその人の婚約者だったと。
そして結婚式をあげる日に亡くなったのだと。
その死が、桜鬼自身がもたらせたものだと
あの鬼の悲鳴が、意識の中へと流れ込んできて、
ボクは思わず足に力を入れて踏ん張る。
「神威どうした?」
「少し疲れただけ。
でももうすぐ謎が解けていく気がするから」
更に意識を重ねていく。
『あの日のようにお前の大切な存在を殺すがいい。
私の可愛い傀儡よ。
二人とも、アレを殺しなさい。
私の願いを叶えなさい』
紅葉が告げると、依子と咲は徐々に桜鬼の方へと歩いていく。
桜鬼が自らの鞘から解き放った剣を手にしながら、
覚悟を決めたように、依子と愛する少女を見据えた。
飛翔を振り払って、ボクは指文字を描きながら
駆けだそうとした時、桜鬼はただ一瞬、ボクの方に視線を向けて
首を静かに横にふる。
*
ボクに任せて……。
これはボクの最期の務めだから。
*
そんな声がボクの体を呪縛して、
前へと進むことが出来なくなった。
動けないボクは、ゆっくりと印を結んで金色の鳥に
桜鬼の想いを宿す。
彼の想いが言霊となって、あの咲の元へと届いて欲しいから。
流れ込む桜鬼の想いを言葉にして、何度も何度も金色の鳥に向かって
紡ぎ続ける。
そんなボクの隣、印を結ぶボクの手を包み込むように桜瑛も自らの両手を重ねて
同じ言葉を紡いでいく。
*
咲……一人じゃない。
だから悲しまないで。
悲しまないで……。
*