悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
桜鬼の想いを金色の鳥に託して。
一際高く、鳥が飛翔して真っ直ぐに咲と言う少女の方へと羽ばたいていく。
何度も空を旋回を繰り返す。
ふいに倒れてきた咲と言う少女を、桜鬼は愛しそうに抱きとめた。
思わず見届けたその姿に、ボクと桜瑛はお互いの顔を見合わせる。
だけど……咲の願いは変わらない。
桜鬼の哀しみは深まるばかり。
ふいに桜鬼は、依子と言う少女の前に……資料で見たYUKIとしての
姿へと変化して見せる。
プラチナの髪に朱金の瞳。
角を隠し、柔らかに依子に呼びかける存在。
その姿を見て一瞬、依子の勢いが止まったその隙に
桜鬼は本来の姿へと戻って依子の動きを全て封じた。
*
須王依子【すおう よりこ】。
我が名は、
桜鬼神・和鬼。
この者の手に宿りし、
鬼の刻印を閉ざし、鬼の干渉を断つ。
気を閉ざし、悪鬼を祓【はら】う。
汝【なれ】の御手【みて】に刻まれし
鬼の烙印【らくいん】狩りとらん
己が世界へ……。
心に宿りし、
YUKIと共に
*
桜鬼は歌うように言葉を紡ぎ続ける。
依子の魂が、桜鬼の桜吹雪と歌声に包まれるように
舞い上がると、隣に居た柊が、蒼龍を顕現させてその力を持って
現実の世界へと送り届けているのが伝わった。
「依子は?」
「彼女は桜塚神社の御神木へ」
「神社の御神木と言うことは、徳力の結界と繋がってる」
「はいっ、さようです」
「彼女にもう被害は?」
「ご心配には及びません。氷蓮の力が加護することでしょう」
柊の言葉に安心をボクが得るのと、桜鬼が何かを得たのと同時で
そのまま桜鬼は倒れ込むように地面へと足をつく。
それでも桜鬼は真っ直ぐに、紅葉を視線で捉える。
『依子さんは返したよ。
君の手が届かない龍神の御元【みもと】へ。
己が復讐の為に、人の純粋な心を悪用した君を
ボクは許すことなんて出来ないよ。
依子さんの次は、咲もボクに返して貰う』
それと同時に、剣を持ち変えて咲と対峙する。
咲の願いを叶えるために。
咲の攻撃をスーっと交わした桜鬼は『……サヨナラ、咲……』と
告げた後、その剣を女の体の中へと差し込んだ。