悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



桜鬼の想いを金色の鳥に託して。



一際高く、鳥が飛翔して真っ直ぐに咲と言う少女の方へと羽ばたいていく。
何度も空を旋回を繰り返す。




ふいに倒れてきた咲と言う少女を、桜鬼は愛しそうに抱きとめた。





思わず見届けたその姿に、ボクと桜瑛はお互いの顔を見合わせる。



だけど……咲の願いは変わらない。


桜鬼の哀しみは深まるばかり。




ふいに桜鬼は、依子と言う少女の前に……資料で見たYUKIとしての
姿へと変化して見せる。



プラチナの髪に朱金の瞳。
角を隠し、柔らかに依子に呼びかける存在。



その姿を見て一瞬、依子の勢いが止まったその隙に
桜鬼は本来の姿へと戻って依子の動きを全て封じた。






須王依子【すおう よりこ】。


我が名は、
桜鬼神・和鬼。

この者の手に宿りし、
鬼の刻印を閉ざし、鬼の干渉を断つ。

気を閉ざし、悪鬼を祓【はら】う。

汝【なれ】の御手【みて】に刻まれし
鬼の烙印【らくいん】狩りとらん


己が世界へ……。

心に宿りし、
YUKIと共に







桜鬼は歌うように言葉を紡ぎ続ける。




依子の魂が、桜鬼の桜吹雪と歌声に包まれるように
舞い上がると、隣に居た柊が、蒼龍を顕現させてその力を持って
現実の世界へと送り届けているのが伝わった。




「依子は?」

「彼女は桜塚神社の御神木へ」

「神社の御神木と言うことは、徳力の結界と繋がってる」
 
「はいっ、さようです」

「彼女にもう被害は?」

「ご心配には及びません。氷蓮の力が加護することでしょう」



柊の言葉に安心をボクが得るのと、桜鬼が何かを得たのと同時で
そのまま桜鬼は倒れ込むように地面へと足をつく。

それでも桜鬼は真っ直ぐに、紅葉を視線で捉える。


『依子さんは返したよ。
 君の手が届かない龍神の御元【みもと】へ。

 己が復讐の為に、人の純粋な心を悪用した君を
 ボクは許すことなんて出来ないよ。

 依子さんの次は、咲もボクに返して貰う』


それと同時に、剣を持ち変えて咲と対峙する。




咲の願いを叶えるために。




咲の攻撃をスーっと交わした桜鬼は『……サヨナラ、咲……』と
告げた後、その剣を女の体の中へと差し込んだ。
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