悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
22.鬼の青年 -飛翔-
「飛翔、お疲れ様でございました」
寝台の上で体を起こすと、
そこには華月が心配そうに俺を覗き込む。
まだ怠すぎる体を何とか手をつきながら起こして、
寝台から立ち上がると、今も眠ったままの神威の傍へと近づいていく。
「華月、どれほどの時間が過ぎていたんだ」
「サクラが力の解放をして、三夜の時間が流れました」
三日間?
あの時間が……三日も経っていたというのか。
華月の言葉に驚きながら、目の前の神威の状態を確認して
準に柊・桜瑛の状態も確認していく。
「多分、眠っているだけだと思うが……」
「万が一に備えて、ホームドクターとも連絡をとっていますから。
順にあちらの病院へと搬送して頂けるように手配しています。
飛翔、お疲れだと思いますが娘も……」
華月はそう言うと、視線を奥の方に向ける。
そこには小袖と長袴だけの姿で闇寿に抱かれて横たわるアイツの娘。
華月に支えられるように駆け寄って状態を確認しながら心の中で安堵する。
「命に別状はないだろう」
短く告げて俺自身も、そのままその場に座り込む。
「まぁ飛翔、貴方もお休みになられなくては……」
「神威が気にしてた桜鬼は?」
「現在、総力をあげて追跡していますが今だ見つかっていません。
ご当主の為にも、軌跡を辿ることが出来ればよいのですが」
「あぁ、部屋で休む。神威たちを頼む」
そのまま再び下肢に力をいれて、何とか立ち上がると
ゆっくりと総本家の邸の方へと歩みを進める。
「お疲れ様でした。
肩、お貸しします」
すかさず支えるように万葉が俺の腕を、
アイツの型へとまわさせる。
万葉に支えられるように邸の中へと入ると、
客室に支度されている布団へと潜り込んだ。
今もポケットには、兄貴の文字で綴られた雷龍の護符が
傷一つない状態でおさめられている。
取り出して兄貴の文字を辿りながら、
静かに祈りと感謝を告げた。
重怠い状態が続いて、瞼が自然に落ちてくる。
*
全て終わった。休む。
*
それでも何とか意識を繋いで由貴に短いメールを送信して、
そのまま眠りに落ちた。
目が覚めた時、俺の布団の傍には心配そうな由貴が顔を見せる。
「どうして……此処に?」
この場所は総本家で、鷹宮からはかなりの距離がある。
「飛翔、私が来ては行けなかったのですか?
あんな短いメール。
私が心配しないとは思わなかったのですが?
いっ、いえ……飛翔を責めたいわけじゃないんです。
あのメールを頂けたから、私ももう我慢しなくていいとも思えたのですから」
そう言うと親友は何故か泣いているみたいだった。