悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



「この歌は?」

「あらっ、徳力さまは由岐のスポンサーなのに何もご存知ないのね。
 YUKIが今まで、アーティストとして発信してきたメッセージの数々ですわ。

 今、プロデューサーを招いて新たな視点で、YUKIのサウンドをもう一度
 世に送りだそうと、スタッフの皆で頑張ってますの。

 だからYUKIにも試作を聞いて貰いたくて。


 YUKI、早く目覚めてちょうだい。
 私もだけど、貴方を待ってる人が沢山居るのよ」



そう言いながら、依子は一綺の傍で話かける。




眠りの中の鬼は、知ってか知らずか……今も眠り続ける。





だけど……確実に感じることが出来たのは、
和鬼は、桜鬼としてではなく、人である由岐和喜としての時間で
歩み始めている。

そんな風に感じた。





「和鬼、また来るよ。

 ただもうすぐ学校が始まるから、
 毎日は来れなくなる。

 だけどちゃんと会いに来るから、早く起きろ」



和鬼に言葉をかけて、今日も病室を出た。




「神威、他に行きたいところはあるか?」

「桜塚神社。
 あいつが守りたかった場所がどうなってるか、
 見に行きたい」

「わかった」




病院を後にして、次に向かったのは桜塚神社。
ずっと和鬼が大切に守り続けてきた場所。




飛翔の車からゆっくりと降りて、
玉砂利を踏みしめながら境内の方へと歩いていく。



いつものように咲久は掃除をしながら、
ボクたちにお辞儀をする。


そんな咲久にお辞儀を返して、桜の木の方へと向かった。



神社を纏う空気は、澄み渡って息苦しさなど微塵も感じさせない。




桜の木にゆっくりと手を重ねる。


桜の木から流れ込んでくるのは、
何時もこの木の枝に腰掛けていた和鬼の姿。




眠り続けるアイツの魂は、
今もこの場所に留まってるのか?



そんなことすら考えてしまう。



「お祖父ちゃん、お茶の用意が出来たから少し休憩したら?
 後は私が交代するよ」


そう言いながら坂を登ってくる声に意識を向ける。



譲原咲。





あの世界で、新しい鬼の国主になった少女。
あの少女は何ゆえに今ここに居るのだろう?




「あぁ、なら咲に後は任せようか……。
 あっ、そうだ咲。

 そちらの方は、徳力さまといってなこの世界を守ってくださる
 大切な存在だ。
 失礼のないようにな。

 それでは、徳力さま私はこれで」



咲久はお辞儀を終えると、境内から坂の方へと歩いていった。




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