悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
「随分とお疲れのようですね。
眠れていますか?」
「いやっ。
やることが沢山あってな。
俺は……兄貴の権限を借りても、
一族にとっては、厄介者なんだよ。
神威にとってもな……」
最後の言葉を寂しそうに履き出した後、
飛翔は座っていたソファーから立ち上がる。
ふいに特別室に着物姿の華月さんが姿を見せる。
「飛翔、そろそろ参りましょうか?」
長い黒髪が特徴の女性は
上品に告げると、飛翔はその女性の方へと近づいていく。
「華月、俺の親友。
氷室由貴と緒宮勇人だ。
安倍村の災害時にも、手伝いに来てくれた」
「えぇ、飛翔存じていますわ。
あちらでもご挨拶させて頂きましたが、
この度は本当にお世話になりました。
今日よりこちらで、当主がお世話になります。
どうぞ宜しくお願いします」
そう言って華月さんは再び、優雅にお辞儀を続けた。
「ガキを迎えに行ってくる。
ここに連れてきても、
俺はガキとまともな会話にはならないだろう。
だから……由貴や勇が、ガキの話し相手になって貰えたらと思ってる」
そう言うと飛翔は、華月さんと共に特別室を出ていった。
二人の後を私と勇も慌てて追いかける。
その途中、勇が病院内の売店でブラック缶珈琲を購入すると
「飛翔」と名を呼んで、振り向いた時に放り投げた。
「飛翔、僕に出来ることがあれば何時でもいって」
そう告げた勇の言葉を追いかけるように私も続ける。
「えぇ、勇の言う通りです。
私も出来ることを精一杯、お手伝いさせて頂きますよ。
今は神威君を無事に連れてきてください。
その後、時間が出来たら夜にでも話しましょう」
そう言って飛翔に手を振る。
軽くいつもの様に、「わかった」っと言うように手だけをあげると
鷹宮のエントランスから飛翔は出ていってしまう。
止まない雨は今も降り続ける。