悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


そう言って万葉は、再び微笑んだ。



「神威さま、ほらっ、もう一度投げられますか?

 私で良かったら、
 何度でも神威さまが飽きるまで枕拾いさせて頂きますよ」


そう言いながら膝の上の枕を手に取って、ボクの前に差し出す。




そうやってされてしまうと、投げる気も失せる。

無言で枕を取り上げると、所定の位置において
そのままベッドに横になって、掛布団を引き上げながら体を横にして丸める。


後ろから万葉の視線を感じる。



「なぁ、万葉……。
 ボク、今よりもしっかりとして強くなるから。

 今だけ、何も見ないふりしてくれるか」



万葉を病室の外に締め出したくないのは、
一人になってしまうのが怖いから。

だけど……万葉の膝を借りて泣くことも、
当主としてのボク自身が許せない。


だから……見ないふりをしてほしい。



都合がよすぎる願い。



それでも、万葉はただ「はい。ご当主」っと頷いて
ボクの眠る布団をトントンと優しくたたいた。



そう……今だけは、
強くなるために……泣いてもいいか……。 




アイツが告げた『雷龍 翁瑛の札』。

雷龍は、徳力家において先祖代々、当主が使役するはずの
龍神の名。


そしてその龍神を使役化におけた者は、
当主と同格の権限が与えられてるというもの。


今のボクは、当主でありながら今だ、
雷龍の姿を姿を見た事がない。


だからこそ、アイツが本当に雷龍を使役出来る存在であるのだとしたら
父さんが、ボクではなく、アイツにその役目を託しているのであれば
今の徳力の継承権、トップに存在するのは突然現れたアイツ以外有り得ない。



幼い時から、徳力の当主になるためだけに
存在を許されてきたボク自身の、生まれてきた意味が消えてしまう?


そんな恐怖が、ボクを更に困惑させ続けていた。





翌日、午前中に宣言通り姿を見せたアイツは
華月や万葉たちに指示をしながら、
ボクをベッドから抱きあげて車椅子に移動させると、
エントランス前の車へと連れて行く。


徳力のリムジンが何台か横付けされている中、
そのまま車へと抱え入れると、当たり前のように
ボクの隣に着席する。



会話のない想い沈黙のまま、
転院先である鷹宮総合病院へと連れられると、
アイツは転院手続きをして、看護師らと共に
ボクが入院することになる特別室の方へと移動させられた。



それ以来、毎日のように顔を出すものの
ボクとアイツの会話は何処にも存在しない。


窓から外の景色を望みながら過ごすことだけが、
今のボクの時間。



強い雨が……今も降り続けていた。




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