悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
7.降りしきる雨 -飛翔-
故郷が大雪の被害にあった最初の日から、
すでに二週間が近づこうとしていた。
カレンダーも何時の間にか三月。
慌ただしい日々の中で、俺は神威の元に通う時間を作りながら
アイツの為に、兄貴の代わりとして
何が出来るかを考えながら過ごし続けていた。
神威の身柄を神前悧羅から、俺が研修する予定の鷹宮に強引に転院を決めた。
一族の中には、突然現れた俺の存在。
すでに徳力の名を捨てて、一族を抜けたはずの俺が
当主と同格の存在の証、雷龍の札と共に舞い戻った誤算。
俺自身の存在は、厄介者以外の何ものでもないらしく
俺を率先して迎え入れるものは、華月と万葉。
そして華月の旦那でもある、徳力闇寿【とくりき あんじゅ】のみ。
それでも俺は、自分が成すべきことを強引にやり遂げたいと思った。
あの一族の真ん中に神威が存在し続けるには、
まだアイツは幼すぎる。
対面したアイツは、昔の俺以上に子供らしさなんて存在しない。
俺の子供時代も、決して子供らしい子供時代だったとは言えないけれど、
それでも多少は、ガキらしいこともさせて貰った。
養父母は実の両親のように俺を大切にしてくれたし、
甘えさせてもくれた。
素直に甘えることなんて出来なくて、
甘えられぬ俺は、やっぱり可愛げがなかったかも知れないけど
それでもそう言う場所が感じられるだけで、十分に心は満たされてた。
だけどアイツにとって……神威にとって、
今の徳力に、そんな居場所はあるのだろうか?
常に『当主』として、思い枷をつけられて生息し続ける時間に
等身大のガキでいられるはずが見つかるはずもないように思えた。
だからこそ、俺の研修先が鷹宮になっていることをいいことに
神威の転院を提案した。
真意としては、アイツを少しでも一族の圧力が強い場所から
介抱してやりたくて。
風当たりが強いのは俺でいいだろう。
俺を兄貴がそうしてずっと守ってくれていたみたいに、
今度は俺が、あのガキを……神威を守ってやれればと、
こっちに戻ってきてから必死に動き続けた。
鷹宮転院に向けての準備。
安倍村で被災した住民を、俺が兄貴に託されたマンションで生活できるように
マンションの部屋の割り当ての準備。
養父でもある親父にも手伝って貰いながら、
被災者への生活環境の提供。
そしてこれまで、ずっと空き部屋となっていた最上階の準備。
マンション内の最上階は、徳力のトップの部屋として存在している。
それ故に、マンションの権利を与えられた後も俺は
その部屋を使用することは自ら禁じてきた。