悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
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『えぇ、こちら現場の高野です。
私たちが一報を受けて取材に入った時には、
まだ集落が孤立することはなかったのですが、
昨日の昼間、街へと続く唯一の道路が土砂崩れによって寸断されました。
大雪の被害にあった人たちは、
現在、村の唯一の集会場となる会所で避難生活を送っています』
『高野さん、澤野です。
現地の皆さんは、今回の被害について何かいってらっしゃいますか?』
『村の人たちは皆、口を開くと神様の罰が当たったのだと
口にしながら、俯いていらっしゃいます』
『神様……ですか……。
なんだか異様な空気も感じますね。
その場所は土地柄、過去も何度も大雪に見舞われることがあったのでしょうか?』
『えぇ、それに付きましてはこの村の村長さんに意見を伺いましたら、
ここまで酷い雪は初めてだと言うことでした』
*
今も続くキャスターとリポーターの電話越しのやりとり。
TVの画面を見つめながら、
俺は映し出される、斎市【いつきし】と、
徳力の故郷である安倍村【あべむら】のことを思い出していた。
「はいっ、飛翔」
そう言って養母によって、
テーブルに並べられた朝ご飯。
体を気遣う養母が作る朝食は
完全な和食。
お漬物・味のり・お味噌汁・おひたし・焼き魚・卵焼きっと
丁寧に彩られた食事が目前に広がる。
「いただきます」
声に出して、箸を進めながら
そのTVを見つめ続ける。
「あらっ、凄い被害ね。
斎市……。
徳力の総本家がある安倍村も
今は市町村合併で斎市になったのよね」
養母のその言葉に焦りを覚える。
あの場所が昔、俺が家族と住んできた村。
父も母も、
村人の為に命を落とした。
俺が生まれた生家は、凄く特殊な一族であり村だ。
徳力家系の長となる一族当主。
その当主を受け継ぎし存在は、
代々、その村人たちの生神【いきがみ】様として崇められる。
当主は、その代り……村に何か悪事が起きた時
神の怒りを鎮めるための生贄・人柱として海へと還される。
見返りのある特別扱い。