悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
9.雨の記憶~ 前編 ~ -神威-
三月上旬、ボクは鷹宮総合病院を退院して
そのまま連れられた場所は、飛翔が父さんによって渡されたと言う
マンション。
山辺に住む被災者の村人たちが、一斉に住むそのマンションへと
ボクは連れられた。
無言でボクにお辞儀をする村人たち。
だけどそんな無言のお辞儀が、今のボクにはストレスを与えていく。
*
当主としての役割すら果たせない未熟者。
*
そんな風に責められているようにすら感じられて。
逃げるようにエレベーターに乗り込むと、
ボクは飛翔と共に最上階へと上がった。
最上階でゆっくりとエレベーターが止まり、ドアが開くと、
エレベーターの前で見知らぬ二人が深々とお辞儀をして膝を折っていた。
「父さん、母さん。
膝を折るなんて止めてくれ。
神威は当主じゃない。
ただの神威だ」
飛翔が告げるその言葉が、
ボクのプライドを深く傷つけていく。
「飛翔、控えろ。
ボクが当主だ。
お前が徳力に戻ってきたのであれば、
僕に従うのが筋であろう。
そこに控えているお前たちは、何者だ?
なぜ、ここに出入りすることを許可されている」
エレベーターから一歩出て、言い放つボクに
飛翔は無言で視線を飛ばしてくる。
いつもの仕返しのつもりか?
「ご挨拶が送れました。
先代当主の命により、
今日まで、飛翔さまを養子として迎え育てて参りました。
一族末端の早城と申します」
「早城。
先代当主とは、父のことだと思うが
ボクはそのようなこと、一切知らぬ。
このものが父の札を持ち、ボクと同格の地位を得ているらしいが
当主としてボクは認めぬ。
それだけは覚えておくと良い。
出迎え御苦労、下がれ」
それだけ告げて、ボクはマンションの最上階の扉を開けて中に入ると
アイツを拒絶するように、内側からドアの鍵をかけてチェーンで侵入を拒む。
暫く飛翔は、俺の名を叫んでいたが
それもすぐに消えた。