悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
徳力に連なる、当主を受け継いだものは、
代々、村人の為にその命を落とし、
病死として葬られてきた。
お墓に残されたのは、
人柱になる前に託された遺髪のみ。
母が犠牲になり、父が犠牲になった時
次に当主を継いだのは兄貴。
兄貴がその身を落としたとき、
当主を継承するのは俺自身。
兄貴はそんな俺から、
徳力と言う一族を切り離したかったのかもしれない。
だからこそ、徳力と言う檻から
早城と言う一族の末席に連なる夫婦の元へ
養子に出された。
理由も何もなく、ただ放り出された俺は人間不信となり、
表面的な人付き合いしか出来なくなった。
そんな俺に人間らしさを高校時代から関わって教えてくれたのは、
氷室由貴【ひむろゆき】と金城時雨【かねしろしぐれ】の二人だった。
由貴は俺と同じように医者の道になり、
時雨は、事件に巻き込まれて他界した弟の氷雨と父親の真実を知るために
警察官になった。
今はそんな親友たちと出逢えて、
人らしい生活も送れるようになった。
だけど……親父が人柱となって海に消えた
あの最後の夜の雨が、俺の心から消えることはない。
*
『あっ今、会所へと一人の女性が入られました。
この村には、日本でも有数の徳力家の総本家がありまして、
村長と共に当主後見役と呼ばれる地位の方が入られたよう模様です」
*
映像が捉えるその姿は、
長い黒髪を持った着物姿の女性。
徳力華月【とくりきかげつ】。
俺の従姉妹。
華月の後ろには、養父【親父】と数人の姿が確認された。
「まぁ、お父さんどうりで帰れないはずね。
大変なことになってるわ」
キッチンでゴソゴソしていた養母も慌てて、
TVの前へと近づいてくる。
徳力に捨てられたと思っていた幼い俺。
徳力から離れて命が守られた俺。
だけどあんなに一時は憎んだ一族も、
今は何とかして守りたいと思う気持ち。
テーブルに置いていた携帯を取り出して、
養父の携帯を呼び出そうとするものの、
電話が繋がる気配はない。
次に電話をかけるのは由貴。
今日は午後から、四月から順調にいくとお世話になるはずの
鷹宮総合病院へとボランティアに行こうと話していた。
その予定はキャンセルにするしかないな。
先月はH市で大地震があった。
んで今月は、安倍村が大雪かよ。
自然脅威に怒りすら考えながら、
俺は落ち着かぬ心を持て余す。
メロディーコールが鳴り響くものの、
由貴はなかなか出ない。
少しイライラし始めた頃、電話の向こうから
由貴の声が聞こえた。