悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
運ばれてきた朝ご飯にお箸を少しだけつけると、
そのままボクは再び、布団に横になった。
身の回りの鞄から携帯電話を取り出すものの、
電波は圏外。
徳力の敷地内に、電波が届かない場所があるなんて。
当主と言う立場でありながら、
まだまだ敷地内のことですら知らないことが多すぎる現実が
重くのしかかる。
この部屋で過ごしている間も、
眠るたびに何度も何度も夢を見た。
当初は、雨の中に消えていく夢ばかり見せていた夢も、
今は……ボクに甘い時間を囁く。
お父さんが抱きしめてくれる夢。
お母さんがご飯を作って、
ボクの誕生日を祝ってくれる夢。
どれも夢であることには変わりないはずなのに、
リアルすぎる夢の中は、居心地が良くて
もっと、その中に居続けたいとすら感じてしまう。
もう現実では叶うはずのない夢が、
ボクに囁き続ける。
ボクが、取り戻したいと望み続けるから……。
神様が、ボクにひと時の時間をくれたのかも知れない。
そんなことを感じながら、
ボクは、何度も何度も微睡の中で、父さんと母さんの温もりに包まれていた。