悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
14.傷を抉る雨~前編~ -由貴-
鷹宮院長によって告げられた飛翔の休暇。
その日から数日が過ぎようとしていた。
幾ら徳力絡みの仕事と神威君探しに慌ただしいとはいえ、
一日に僅かな時間でも、鷹宮に顔くらいは出せるはず……。
ここには、飛翔のお母さんも入院しているのだから。
だけど……休暇を告げられたその日から、
飛翔は一度も姿を見せない。
姿を見せないだけではなく、
どんなに電話をかけても、その電話すら繋がらなかった。
研修の合間に時間を見つけて、
飛翔のマンションに出向きたいと思いながらも
時間に追われすぎて、そんな時間すら思うように作れない。
飛翔が居ないまま、着々と進んでいく私たちの研修。
勇も私も、それぞれに飛翔を気にかけながら
必死に日々を送り続けていた。
「ほい、お疲れさん」
医局で必死に居残って作業を続ける私の傍に、
近づいてきて、マグカップをデスクに置く。
「嵩継さん……」
マグカップの先、視線を向けたところには
嵩継さんと勇・千尋君の姿。
「勇に千尋君まで……」
三人の名前を呟く私。
三人はお互いの顔を見合わせた後、
再び私の方に視線を向ける。
「すいません。
私の作業が遅れていますね。
すぐに片付けますから」
慌ててデスクに置かれたマグカップの中のハーブティーを
一口飲んで、ノートPCと睨めっこしていく。
「千尋、勇人、氷室と交代」
嵩継さんの言葉の後、二人はすぐに私の机に山積みになっているファイルを奪って
二人で今まで私がやり続けていた仕事を続けた。