悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
16.傷を抉る雨~後編~ -飛翔-
突然の来訪者、由貴。
俺のテリトリーに上がり込んで、
寄り添うように、隣に位置する。
そんな由貴に流されるように、
大切な家族写真を見せながら、
昔を思い出してた。
*
俺は……ガキの頃、
生家である総本家を追い出された。
親は早くに死んだ。
物心ついたばかりの頃、
母は俺を優しく抱きしめて姿を消した。
俺に優しく微笑みかけた母が
俺に触れることは二度とない。
母が姿を消した翌年。
次は親父が姿を消した。
俺が覚えているのは、
泣きじゃくった俺を兄貴に預けて、
真っ白な装束を着て静かに出て行った親父の背中。
今も忘れることは出来ない幼い記憶。
「話してください。
今、貴方が心に抱くすべてを」
写真を見つめながら昔を思い返す俺に
由貴の声が突き刺さる。
穏やかな口調の中に逃げることを
許さないとでも言わんばかりの強さを含んだ言葉。
……そうだな……由貴になら、
話してもいいのかも知れないな。
あの頃、伝えられなかった過去(こと)を。
「その写真が……俺と産みの親を繋げる唯一の証。
そして……その家族の中で、唯一の生き残りが俺だ」
写真を見つめながら呟いた言葉に、
由貴は、驚いたように俺を見た。
あまりの告白に言葉を失ったように
由貴はただ、俺を見つめるばかりだった。
「俺の生家、徳力総本家の当主は
生神(いきがみ)として扱われた」
「生神?」
ようやく……自分の中で消化し終えたのか
ゆっくりと問い直す由貴。
「あぁ、ばかげてるだろ。
だが……俺の両親は幼稚園の頃に生神として
その使命を全うした。
いやっ、全うしたなんて言いたくないな」
そう。
あれは……殺人以外の何物でもない。