悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
手紙を読み終えるまで、
何も言わずに無言で見守り続けた養母が
「行くのですか?」っと重い口を開いた。
全ての書類を服の内側ポケットに折りたたんでいれると
車の鍵を握りしめる。
「行って来る、養母さん。
徳力の当主、甥を此処に連れてくる。
最上階、迎え入れられるように準備をしておいてほしい」
養母(はは)は、俺が告げた言葉の後、
静かにこういった。
『飛翔さま。
行ってらっしゃいませ』っと。
飛翔ではなく……様と……
本家のものを敬う呼び方で。
そんな養母(はは)の変わり方に寂しさを
覚えながら俺は地下駐車場までエレベーターで降りる。
愛車のBMWのMロードスターに乗り込んで、
アクセルを踏み込んだ。
もう殆ど覚えていない、生まれ育った場所へ。
車は、
スピードを加速していく。
俺自身でも制御できない
感情の押し寄せるままに。