悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
20.雨を想う時間 -由貴-
『神威君を助けに行く』
嵩継さんに背中を押されて向かった飛翔のマンション。
自棄を起こしていた飛翔が、
そう言ってマンションを飛び出した日から
もう五日が過ぎようとしていた。
不安に駆られるように、何度も何度も鳴らす
飛翔の携帯は、三日前から呼び出し音すら鳴らなくなった。
【おかけになった電話番号は……】
機械的なその自動音声に、
立ち尽くしたまま通話終了ボタンを押す。
「由貴」
「勇、千尋君……」
姿を見せた勇の手には、
マグカップに入ったハーブティー。
「由貴が飛翔を心配なのはわかってる。
僕も千尋も、凄く気になってる。
時雨君だった?
由貴と一緒に暮らしてる刑事さん」
「えぇ。
時雨も昨日から飛翔を探してくれています」
「その時雨さんは由貴になんて言ったの?」
勇の言葉に、昨日の朝の言葉を思い出す。
*
由貴……飛翔は僕が見つけ出すよ。
だから、由貴は僕が飛翔を連れて帰った後のことを頼んだよ。
*
そう言って、時雨はCIMAを走らせて出掛けていった。
「時雨は、飛翔を必ず見つけ出すって」
「だったら飛翔の捜索は、時雨さんに任せよう。
由貴はハーブティー飲み終わったら、
仕事の準備しておいて。
僕は千尋と一緒に、飛翔のお母さんのところに顔出してくる。
お母さんも飛翔のこと心配してると思うから。
今の由貴が顔を出したら、もっと心配させちゃうからね」
勇はそう言うと、二人は医局から出ていった。
勇から手渡されたハープティーを一口含む。
カモミールティー。
カモミールティーの香りと、
温かさが、体の緊張を少しずつほぐしてくれる。
時雨が家を出て丸一日。