悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
「由貴、頼みがある。
俺の携帯電池切れで、電話貸してくれないか」
飛翔に言われるままに、一度病室を後にして携帯電話と一緒に病室を訪ねると
再び戻ってきていた時雨とノートパソコンを見ながら何かを話していた。
「飛翔、携帯持ってきたよ。
まだ寝てないと」
そう言って休ませようとする私の行動を無言で手だけで制する。
「時雨、俺が発見されたのはこの場所なんだよな。
時雨が探してくれた、此処から此処までの7か所には
誰も居なかったんだよな。
だったら、此処には神威はいないはずだ。
俺が居た座敷牢に、俺以外の奴が居た感じはしなかった。
だったら……」
そのまま飛翔の手が伸びて来る。
その手の中に携帯電話を預けると、
飛翔は暗記しているのか、何処かに私の電話から発信する。
*
「俺だ。
総本家でぶっ倒れて、山瀬の座敷牢で監禁されてたところ
友人に助けられた。
まだ神威は奪還出来てない。
明日にも退院して、もう一度向かう。
華月は見つかったか?
……そうか……引き続き、闇寿さまに探して貰ってくれ。
俺が監禁された土地の持ち主は、康清名義。
康清絡みの土地を探す方が、簡単に見つかるかもしれん」
*
そう言って誰かと電話を終えると、
携帯電話を私の手の中にポトリと落とす。
外はまた雨が降り続けていた。
「雨……かっ……」
小さく呟いた飛翔の声に、
飛翔の重たい過去を思い出す。
飛翔はずっと……
今まで雨に縛られ続けてきたのかもしれない。
お母さんを奪った雨。
お父さんを奪った雨。
お兄さんを奪った雨。
だからこそ、
神威君を助けたいと望み続ける。