悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
21.別れの雨 -神威-
「ご当主、いよいよ明日が儀式となります」
いつもの様に康清が入って来るや否や、
恭しく頭を下げて敬意の姿勢を作る。
「わかっている。
当主として、ボクも逃げることはない。
だからもう下がれ。
朝まで一人にしてくれ」
淡々と告げると、康清もまた部屋を後にする。
明日、この身は海へと還される。
ボクのその未来は、もう変わることなどない。
華月……万葉……。
お前たちも、ボクが当主としての務めを
果たすことが望みなのか……。
窓から眺める暗がり、
ボクは自らが、小さな籠の中に閉じ込められる鳥のような
そんな錯覚にすら捕らわれてしまう。
ボクの周囲には、常に透明な籠が付きまとい続けてる。
徳力の人間と言うこと。
一族の当主と言うこと。
この村の生神だと言うこと。
ぼんやりと外の景色を望み続けながら、
脳裏に浮かんでくるのは、早城飛翔。
お父さんの弟だと知らされた
アイツの顔だけだった。
アイツと最後に逢ったのは、
昂燿の寮まで送って貰った日。
アイツと最後に話したのは、
終業式の前夜。
……何思い出してたんだ……。
アイツは一族の裏切り者だろ。
アイツは一族を全て捨てて、
柵から解放されたんだ。
だったら……このバカらしい茶番に
付き合わせる必要などないだろ。