捨て猫にパン
「ハイ、コーヒー」


「ありがとう…ございます…」


もらったコーヒーはコナの香りがした。


右隣に座った倉持さんからは、タバコのフレーバー。


今のあたしは多分、何の味もしないんだろうな…。


無味の恋、無意味な恋。


こんな恋、見つけられなきゃ良かった、って思うのに、あたしの想いは膨らむばかりで眠ってはくれない。


「声が聞きたかったよ」


「ハイ…」


「会いたくてたまらなかった」


「ハイ…あたしも、です…」


「気持ち、一緒だね」


“一緒”


その言葉に心が震える。


“一緒”って、どれだけ大事なことなのか、今のあたしにならわかるから。


だって、陣とは同じになれないんだもん。


想いも、歩幅も揃わなくてちぐはぐで、お互い大切ではあるけれどどこかすれ違ってる2人。


なのに倉持さんは。


こんなにたやすく“一緒”を見つけてしまう。


一瞬であたしの心を溶かしてしまう。
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