捨て猫にパン
「腹減ったけど、まだ真琴足りなさそうだな?」


「だって、久しぶりなんだもん。陣、もうすぐ本店でしょ?ますます時間作れなくなっちゃう」


「の、分、俺はゆっくりベッドで味わいたいケド?」


「は、おあずけ。次は何で遊ぼうかなぁ♪」


「チェッ。しょーがないかっ。今日は真琴に仕切ってもらうとするかっ。あ、でも、アレ、まだ入ってなくね?」


陣が座ったベンチの上から指さしたのは、数ある遊園地の中でも迷子率の高いミラーハウス。


「えーっ!アレはヤ」


「なんで?」


「あたし、方向音痴だもん」


「迷うから楽しいんじゃん」


「でも…」


「俺、入る。真琴、ちゃんと出口まで来いよ。俺、待ってるから」


「あっ!待って、陣!」


あたしはモタモタ食べていたソフトクリームを口に押し込み、陣を追う。


入るなり鏡、鏡で早くも方向感覚ゼロ。


「じーんーっ!」


「ココだって。真琴、早く来いよ」


「どこ?ねぇ、陣、戻ってよ…」


「こっち。早く来いよ」


声がどんどん遠くなる。


陣の背中が見えなくて、あたしはどんどん不安になる。


鏡に写るあたし。


鏡に写ってる自分すら見えなくなってくるあたし。
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