捨て猫にパン
───パタン


あたしは助手席のドアを閉じる。


「お待たせしました」


「返せた?指輪」


「うん…。飼い猫の散歩だ、って。指輪も気持ちも受け取ってもらえました」


「そうか。じゃあ、行くよ」


「…?」


「亀戸の神明まつり。またりんごあめ、買おう」


「フフッ…。今度は食べられそう」


「うん。一緒に食べよう」


要さんの運転する特等席が走る。


普段は大人しい街の住宅街がおまつりで賑わう亀戸に模様替え。


あたしの服も心も、秋と要さんに模様替え。


車を降りてあたしと同じに歩幅を合わせてくれる要さんの左手は、この右手と重なって。


きっともう離れない、見失わない、迷わない。
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