捨て猫にパン
「何もなければ良かった」


「…?」


「電車とかさ、痴漢とかさ、そんなのなきゃ良かったんだよ」


「…陣、主任…?」


「真琴さ、スキだらけなんだよ。たった1回、痴漢に助けられた男につけ込まれんのも、俺をこんな気持ちにさせちまうのも、オマエが悪い」


こんな…気持ち…?


「俺さ、ずっとオマエ、真琴のことが…好きだった───」


「…!!」


“なんで?”の答え。


ようやく、初めてわかった陣主任からの答えは…。


“好き”


「好きだ。どうしようもなく真琴のことが───好き、だ」


言葉の強さ、想いの強さ、抱き締められる腕の強さ。


どれも窮屈で。


思ってもみなかった陣主任の告白に、心がフリーズして。


あたしはどの引き出しを探ってみても、言葉が見つからなくて。
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