捨て猫にパン
「車、ちょっと遠くなるけど、歩ける?」


「ハイ、大丈夫です」


「了解」


すでに人でいっぱいの下町、お祭り会場とは少し離れたパーキングに車を止めて歩く倉持さんは、


「迷子防止」って。


左手をくれるから。


傷だらけのあたしの右手は、その大きな手に包まれる。


日射しも右手も胸も、灼けるように熱い。


そんな体温を掴んでいたい、忘れたくないと思ってしまうあたしの心は。


何を求めて、どこにあるんだろ…。


俯いて写る自分の黄色い水仙色のスカートが揺れるのを見て、フワフワした気持ちと重なった。
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