捨て猫にパン
「少し走るから」


そう言って車はどんどん都心から遠ざかる。


灰色のビルより緑の景色が車窓を飾る。


でも、あたしの心に色はなくて。


手の中で転がす、あんなにキラキラしてたりんごあめも色をなくして。


何も言ってくれない倉持さんに、あたしは目尻に浮かんだ涙をそっと拭った。


しばらく走った車は、小高い丘の上の小さな赤い屋根の家の前で停車。


「ここ。隠れ家イタリアン。入ろ」


「ハイ…」


───パタン


車を降りて入った小さなレストランには、あたし達以外のお客さんが2組。


案内された奥のテーブルにつくと、メニューは予約済みらしく、冷たいアイスコーヒーだけが目の前に置かれた。
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