捨て猫にパン
「真琴ちゃん?」


「ハイ…」


「手、見せて」


向いに座った倉持さんにあたしは両手を差し出す。


その右手だけを取った倉持さんは、ゆっくりと手の甲をさすってくれた。


「また噛んだね?」


───コクン


頷くと倉持さんは、小さな溜め息をついた。


「なぜそんなに自分をいじめるの?」


「もう…」


「ん?」


「もう、車で出勤できないんです…」


「それってつまり、オレを拒否ってコト?」


「そうじゃなくて…!主任に…言われて…。だから明日からは1人で電車に乗ります…」


「真琴ちゃんがそうしたいの?」


「それは…!」


「違うよね?って、オレは思いたいんだけど」


どうしよう…。


何て言えばいいの?


まだ陣主任への答えは出してない。


まだ倉持さんへの自分の気持ちもわかっていない。


でも…でも、ね。


あの助手席に乗っていたいの。


隣でタバコの匂いと一緒に呼吸する倉持さんを感じていたいの。


捨て猫にパンでもいい。


無責任な優しさでもいい、何も期待なんてしないから。


だから…!
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