捨て猫にパン
「シャボン玉、飛んだ…屋根まで飛んだ…屋根まで飛んで…こ、わ、れ、て…消え、た…」


小さく歌ってみて、あたしは手の甲を噛む。


どうしても想いが消えそうになる、陣。


どうしても想いが募る、倉持さん。


会いたい…。


会いたいよ…。


ねぇ、どれだけ泣けばあなたに届きますか?


どれだけこの手を痛めれば、繋いでくれますか?


ねぇ…倉持さん…。


この空はあなたへとつながっているはずなのに。


夏の星座より遠いです…。


「シャボン玉、飛んだ…屋根ま、で…っ…っ…!」


「───真琴!!」


駆け寄る陣の影があたしと重なる。


抱き締められる柑橘系の香りに、あたしは悲しみしか流せない。


「…っ…っ…!陣…!陣!」


「ベッドにいないから心配した。どっか、俺の手の届かないどっかに行っちまったんじゃねぇか、って、不安で。たまらなく不安で」


ううん、違う。


届いてないのは、きっと。


きっと、あたしの方なんだよ…陣…。
< 91 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop