捨て猫にパン
「なぁ、真琴」


「…っ…っ…」


「どこにも行かないよな?俺の傍だけで笑っていてほしい。頼むから、ここに。俺、オマエなしなんてもう考えらんねぇ。置いてきぼりになんてしないから、さ。ちゃんと明日を取り戻そう」


「あたしに…できるかな…。頑張れるかな…」


「頑張らなくていい。真琴は真琴の等身大で、ありのままで俺を…俺を愛してくれないか」


もう一度。


もう一度だけ2人のスタートに立てるのなら、もしかしたらあたしと陣の歩調は同じになるのかもしれない。


手を取り合える?


時々、振り返られる?


それができるのなら…。


「真琴、伝わるだろ?俺の声とか、想いとかさ。受け取ってくれよ…!」


強く抱き締められた腕の中で。


あたしは小さく頷いて。


「じゃあ…指切りげんまん、して?」


「うん、わかった」


「指切りげんまん 嘘ついたら針千本のーます 指きった」


この離れた小指が、気持ちが。


もうはぐれませんように。


「部屋、戻ろうか」


「うん…」


今度はあたしに合わせて、ゆっくりと。


陣はあたしが眠りにつくまで、ずっと。


ベッドの中であたしの髪を撫でてくれていた。
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