捨て猫にパン
*一人ぼっち*
軽井沢の一泊二日の旅行以来、陣との休みがなかなか合わず、デートもない。


陣の残業も多くて、あたしのアパートに来てくれることもないまま、8月の蝉は残りの時にすがるようにうるさく鳴いた。


深夜に繋がる電話だけが陣との糸。


すきま風のその距離に少し呼吸が楽になった自分を叱る。


『もうすぐだから』


「うん」


『今月末には例の企画の最終パンフ、北京語に訳して本店持ってく。そしたら、また、2人でどっか出かけような?』


「どこがいいかなぁ…」


『今度は真琴の行きたい所にしような』


「フフッ♪すっごいおねだりしちゃうから」


『覚悟しとくよ。じゃあ、また明日な』


「うん。疲れてるのに、電話ありがと」


『真琴の声で帳消しだよ。おやすみ、真琴』


「ハイ。おやすみなさい」


陣と終わったばかりの通話のそのケータイの電話帳を検索してしまうのが、最近のあたしの癖。
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