捨て猫にパン
───スッ


静かにあたしの前にシルバーの車が止まる。


降りてきた倉持さんは、いつもそうしてくれたように助手席のドアを開けてくれて、


「乗って」


って言う。


「オレん家、行くから」


それだけで車内はブレーキとアクセル、時々ウィンカーを鳴らして、あたし達を目的地まで運んだ。


倉持さんの部屋はモノトーン調の落ち着いたきれいな部屋で、でもどことなく生活感が感じられず、それがあたしを一層緊張させた。


「座るといいよ」


「ハイ…」


グレーの革張りのソファーのはじっこに座って、あたしの視界には白いラグマットに乗った自分の足しか見えない。


会いたくて会いたくてたまらなかったのに、会話の糸口が見つけられない。
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