隣の部屋のナポレオンー学生・夏verー
Ⅱ
暑い日こそ冷麦を食べようぜ
「ふん、ふふ、ふん、ふふ、ふん、ふふ、ふんふん……」
相変わらず桁外れに音程がずれた鼻歌を歌いながら、ナポレオンは能天気に鍋で湯を沸かしている。
あたしは無言・無情・無表情で、ナポレオンの前にある鍋を凝視する。
どこかって?
ここはナポレオン(名義は御堂暁だが)の部屋。
物に無頓着なのか、生活必需品以外は何もおかれておらず、かなり質素だ。
華やかで贅沢な生活を好んでいた(と思わしい)貴族の1人とは、到底思えないほどに。
まあ、彼は貴族というよりは貴族階級の軍人だったから、そういった貴族の嗜好は持たないのだろう。
……というか。
「……ねえ、たかだかソーメン湯掻くのに、見張りって必要なの?」
あたしは聞いてみた。
なぜあたしがナポレオンの部屋にいるのか。
もちろん何もなければ、このバイトも大学もない日に用もなくナポレオンの部屋に来たりはしない。
部屋でごろごろと寝転がり、愛犬の鋼太郎と戯れているところである。
だが、残念ながらそれはできないのだ。
ーーー時は数十分前に遡る。