隣の部屋のナポレオンー学生・夏verー
「余はな、おそらくもう体が長く持たんのだ。
最近は咳き込むことも多くなったし、咳に混じって血を吐くようにもなった。
もう戦にも出られんだろう。
だから最後に、このフランスを発展させるための手立てを、異国で探ってこようと思うのだ」
ナポレオーネ陛下は、真摯な視線でナポレオンを射抜いていた。
「海の果てには、黄金に恵まれた小さな極東の島があってな。
その国は、皇帝に使えるべき兵士が地位を重ねてのし上がり、ついには皇帝を退けて、剣を扱う兵士が国を作るようになった。
……まるで、我らのようだろう」
「ーーー」
「余は知りたいのだ。
自由を掲げたことのない国の兵たちが、どのようにして皇帝を退け、国を作ったのか。
だから余は海を渡り、そこへゆくのだ」
「なにを馬鹿なことを言う。
第一、お前、妻子はどうするのだ?
マリや、その子……ジョゼフィーヌはどうするのだ⁉︎」
ナポレオンは重要な話を投げかけるが、ナポレオーネ陛下はさして気にも留めていなさそうな涼しい顔をしていた。
「お前の好きにすればよい」
「なっ……」
ナポレオンは言葉を失ったようだった。
こちらのほうは性交の経験が全くないらしい。
恥ずかしげに顔を赤らめ、「どいつも好みではない」と首を横に振った。
「漆黒で艶やかでまっすぐな髪。
中背で少し黄色っぽい肌。
あと黒い瞳の童顔の女が好みだ。
我が輩は、好きでもない女など抱く気はない」
「東洋人が好みなわけか」
ナポレオーネ陛下が一瞬だけ、緩んだように呟く。
私から見ても、ナポレオンの好みは偏っている。
そんな頑なになっていては、一生妻帯などできはしないだろう。
死ぬまで童貞のままだ。