隣の部屋のナポレオンー学生・夏verー
「とにかく、だ。
余が向こうの国の者に扮して、役に立つ知恵を持ち帰ってくる。
お前は、それまで国を守っていてくれれば良い」
「……我が輩は、お前がいなくては駄目だ」
「なにを言っておる」
ナポレオーネ陛下は、ナポレオンの肩にそっと手を置いた。
「余よりも、才があるのはお前の方だ。
そんなに情けのないことを言うでない」
優しくたしなめ、ナポレオーネ陛下は深く息をつく。
「余は7日後にこの国を出る。
そのことは、ブーリエンヌとモントロンしか知らぬ。
それまでは、ナポレオンよ。
お前が今までの皇帝として人々の前に出て、この国を収めるのだぞ」
もちろん、このことは重要機密だ。
漏らしてはならぬぞ。
ナポレオーネ陛下はそれだけ言い残し、戴冠式の部屋を後にした。
私が極東の国の男児として生まれて、はや30年はするが、未だに、その時のナポレオンの悔しげな顔は鮮明に覚えている。