隣の部屋のナポレオンー学生・夏verー
生まれ変わる、とはこういうことを言うのかもしれない。
なぜか物心がついた時から私には生前の記憶があり、異国の言葉も完全に理解できていた。
人生とは、いかなる創作物よりも奇なるものだ。
物覚えの良さも幸いして、私は他の教育学部の生徒と共に、見事資格取得に成功した。
それからは日本の一般市民と同様に、豊かでも貧しくもない生活を送ってきたのだった。
政治の世界は、もう飽きた。
いまは文学科の准教授としてとある大学に勤めているが、教員生活というのもなかなか面白いものだ。
さて、教員生活を始めて6年目の夏。
私は勤めている大学で、不思議な生徒を見つけたのだった。
御堂暁、という1年生の男学生である。
初めに見たときは、他の学生と変わらない、普通の青年だった。
他の学生と違う点を強いて言うなら、コバルトのような澄んだ空色の瞳と、シミひとつない白い肌くらいだ。
いたって普通の大学生だが、奇妙なことに、特定の人物の前でのみ、打って変わって豹変する。
曽根 緋奈子という女学生だった。
中高において居合道に励み、好成績を残したという、可憐な容姿のわりに実に雄々しい女学生である。
ーーーそう、まさに今この瞬間、私の横にいる女学生だ。
「いや、すまないね。
女の子に資料持たせなんて」
「あ、大丈夫ですよ。
先生もたくさん資料持ってますし。
これでも結構力あるんで」
「そうかな?」
ふふ、と私は笑ってみる。
そうかな?
結構どころか、かなり力がありそうに見えるんだけど。
と、言いたくなるのをこらえる。
女性にそのようなことを言うのは失礼であるし、日本ではストレートに親しくない人の外見をあれこれというと嫌われる。
しかし正直なことを言うと、私は頼れる女性よりも守られてくれる女性の方がこのみである。