隣の部屋のナポレオンー学生・夏verー
あたしの中で蘇った萌えは、きゅうと快感さえ覚えるほどに胸を締め付ける。
けど……
同時にあたしの中の“常識人”が危機感を叫んでる。
「なにを萌えてるのよ、あたし‼︎
もう腐女子は卒業すると言ったじゃない‼︎」
……と。
昔は「エロいもの苦手」なんて言いつつも、男が男のケツや腐女子穴にぶち込んでるシーンは好んで見ていた。
それがあってか、そういう濡場のことは容易に想像できる。
いやいやいや。
でも、いくらあたしでも、ナポレオンをネタにしてそんなこと考えたりはしないよ?
第一、あたしは腐女子を卒業した(はず)。
しかも、あのナポレオンだよ。
肖像画から見ても普通のおっさんだし。
というか、彼は自分の口で「女が好き」と言っていたし、男色臭はしない。
ネタにならないわ。
……や……でも、ちょっと待った。
それは誰かとのカップリングにおいて、ナポレオンが“上”と考えた場合の話。
じゃあ、もし彼が“下”だったら?
たしかに昔はブサイクで肥満のおっさんだったかもしれない。
けだ、それはナポレオンの昔のことを知っているあたしだから思えること。
赤の他人にしてみれば、いまこの御堂暁の外見をしたナポレオンは、
「ちょっと綺麗な顔をした好青年」だ。
明るくて気さくで、わがままで、ちょっと泣き虫要素が入ってる。
『緋奈子のツッコミはいつも痛いっ……!
緋奈子のばか……!』
いっつもくだらないことを、半ば泣き顔で言ってくる。
よくよく考えたら、これは男からしたらそそる。
あれはいわゆる、『泣かしてみたい男』なのだ。
あたしはことさらに青ざめた。